かつて、文太さんから、内容の理解がないと正しい翻訳はできないというような
内容の指摘(教育的指導?)をいただいたことがあります。
今回、まさにその通りのことが職場でありました。
私は現在、いわゆるオンライン回線のメンテナンスということが仕事です。
回線の中をそのままデジタルのビットが運ばれるときはいいのですが、アナログ
の電話が伝送されることもあります。いわゆる、ホットラインというやつですね。
この時、音声そのものではなく、ダイヤル番号やらベルの鳴動信号というような、
制御信号といえばわかりやすいでしょうか、これらを伝送する方法にいくつかの
方式があって、そのうちの一つにリングダウン方式というものがあります。この
方式の中身については職場にいくらでも資料があるのですが、今回、20代半ば
の若手から質問されたのは、なぜそういう名称なのか、ということでした。
Google先生に探してもらいましたが、日本語で名称の由来を解説しているサイト
は見つかりませんでした。英語のつづりはわかるので、そちらで検索したところ、
英文のWikipediaが引っかかって、そちらにはしっかりと名称の由来も記載されて
いました。以下の通りです。
> The term originated in magneto telephone signaling in which cranking
> the magneto generator, either integrated into the telephone set or
> housed in a connected ringer box, would not only ring its bell but
> also cause a drop to fall down at the telephone exchange switchboard,
> marked with the number of the line to which the magneto telephone
> instrument was connected.
これを読んで、私は「あぁ、なるほど」と思いましたがね。
現物を知らない人には何のことかわからないと思います。
60歳前後の先輩たち何人かに聞いても、ほとんどの人たちが
「へぇ、そうなのか、そういわれればそうだよな」
という反応。
複数の65歳近い先輩のうちで一人だけ、
「あぁそうだよ。俺はそいつをメンテナンスしていたことがあるよ」
といった具合。
以下、割と原文に忠実な意訳。
「この言葉は、磁石式電話機において、電話機内蔵の磁石式発電機のハンドル
を回すか、または電話機内に接続されているベル信号送出装置により、それ
自体のベルが鳴動するだけでなく、電話交換台において、その磁石式電話機
が接続された回線の番号の表示が落下することに由来する。」
もうちょっとだけわかりやすくすると、こんな感じかな。
「磁石式電話機からベルの鳴動信号を送ると、交換台ではベルが鳴るだけでは
なく、信号を送ってきた回線の電話番号の表示板を落下させることで、どの
回線が信号を送ってきたのかを判別する。名称はこの挙動に由来する。」
こう書いても、電話の歴史に詳しくない人には何のことやらわからないでしょう。
まさに、中身を知らないと翻訳できない、という典型。
まず、磁石式電話というのは、大昔の、ダイヤルがない時代の電話機のこと。
ドラマや映画なんかで、たまにありますよね、何やらハンドルをぐるぐる回して
交換手を呼び出すやつ。
現在では、それこそ、ホットライン的なところにしか使われていないはず。
同じ手動交換式でも、後年に普及した、共電式といわれるハンドルのないタイプ
のものは、ごく最近まで一部のホテルとか大きなビルとかで残っていましたから、
ご存知の方も多いかもしれません。これは、受話器を持ち上げるだけで交換手を
呼び出すことができるタイプです。この手の新しいタイプの交換台では、該当の
回線の表示ランプが光るようになっています。
しかし、初期の磁石式電話の交換台の場合、該当の回線の、表示板というよりも
「札」(ふだ)といったほうがいいような、そんなような感じのものがぽろっと
落下するようになっていたのですね。
う〜ん、一般的によく見かけるものでいうと、何に例えればいいかなぁ。
似ているものがあまり思いつかない。
無理やり例えていうと、鳩時計の鳩の出てくる扉、アレは大抵左右に開きますが
そうではなく、それが上下に開いて、開いたところに回線番号が表示されている、
というような感じでしょうかね。
これを「開落形表示器」というのだそうです。この名称は、つい先日知りました。
交換台全景としては、以下のようなものです。
http://park.org/Japan/NTT/MUSEUM/html_f3/F3_menu_3_final_5_j.html
この、上側の部分が、回線ごとの表示器の部分。
拡大写真も探してみたのですが、映りのいいものはあまり見つかりませんね。
http://sonryumei.exblog.jp/17515926/
ここ↑に掲載されている3番目の写真が、上側の表示器の部分が切れてしまって
いるのですが、一番わかりやすいかな。
表示器そのものの拡大写真は以下のサイトにありました。
http://park14.wakwak.com/~ja1suq/tedou.htm
ということで、私自身も勉強になりました。また、何も知らない人にいろいろな
物事を教えるのは、かなりの困難が伴うということもよくわかりました。それを
日常的に行っている教師って、大変な仕事なんですねぇ。
今回、表題について日本語で書かれているページが、NTTさんのサイトを含め
Webで探した範囲では見つからなかったので、自分自身の備忘録を兼ねて、ここに
公開させていただきます。
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