元データを改竄されてしまうとどうしようもありませんがね。
ウソではなく、見せ方のテクニックとして、例えば、普通の棒グラフではなく、
立体的な円柱グラフにして、円柱の太さをどうすればどう見える、というような
ものもありますが、そういうのは単なるプレゼンの技法です。
ん〜、いいかげん時効だから書いてしまおうか。
以下、やや曖昧な書き方をしている部分もありますが、それは記憶に頼っている
からだ、ということにしておいてください。
2013年の終わりごろ、某証券会社から、翌年、2014年の相場の見通しを展望した
資料が届きました。ここ、あくまでも予測ではなく、展望であるところが重要。
中身は、まぁ、そこそこ面白かったですね。
いろんな統計資料が載っていて、中には、こんな統計まであるのか、とびっくり
するようなものもありましたから。基本的に、私、統計は好きですし。あれだ、
ピケティが大量の税務データから格差を論じたように、鉱工業生産だの流通する
貨幣の量などから景気の見通しを語り、それゆえ株価はどうなる、というような
内容のものでした。
執筆者は複数。うち、中心となったのは、上記の某証券会社の主席アナリストを
やられているような方。この主席アナリスト氏、業界内での評判はいいようで、
証券アナリストの業界団体から表彰を受けたこともあるらしい。
ところがねぇ。
この主席アナリスト氏が担当されている、一番最初の総論のような部分で一ヶ所、
私でもわかるような、明らかに恣意的なデータの分析をされていて。
何のデータかというと、中国(中華人民共和国)の毎年の経済成長率の推移。
中国では、5年に1度、大きな会議が開かれます。
偉い人の交代とかがありますからね。
そのため、この会議に合わせて経済建設をがんばるために、会議のある前後の年
とそれ以外の年で平均的な経済成長率に大きな差がある、ということを統計的に
論じておられるのです。その仮説そのものには異論はありませんし、仮説を立論
した後に検証するという態度も好ましいものでしょう。そして、統計的な結論は、
単純平均ではあるけれど、こんなに大きな差がある、というものでした。
まず、単純平均を使っていいものなのか、という点で、本職の統計学者のご意見
等をお聞きしたいところではあります。しかし、私が突っ込みたいのはそこでは
なく、仮に単純平均を使うことが正当だとして、こんなデータの使い方は正しく
ないだろう、という点。
何をやらかしているかというと、この人、データを分析するに当たり、いわゆる
新中国、すなわち共産党革命後の入手可能な全データを使っているところ。
これをやると何がまずいかというと、大躍進政策初期の見かけの経済の急成長と
その後の大減速のデータが反映されてしまうのですね。日本で言うならあたかも、
明治維新以後の全データを単純平均しようというような乱暴なもので、敗戦の年
の経済の落ち込みが今年や来年の景気にどんな影響を与えるというのか、という
ような話になるわけです。
実際、中国の経済をまじめに分析するのなら、いわゆる改革解放後のデータのみ
を使うのがスジでしょう。でもって、このくらいのデータなら、いくらでも公開
されているので、私でも入手可能。ということで、ためしにエクセルで計算して
みましたが、案の定、この人の言うほどの差異は生じませんでした。
一応、強調しておきたいのは、この人の最初の仮定、「5年に一度の会議の前後
は他の年に比べ経済成長率が高い」という事実は見られました。ただ、もう一つ
いっておきたいのは、それほど大きな差異は見られなかったということで、もし
かしたらこれは、いわゆる統計的な誤差なのかもしれません。
ということで、元データを全くいじっていないにもかかわらず、これだけ自分に
都合のよいデータを出せるというのは、ある意味、アナリストって最強だな、と
思いました。
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